TTB解説(6)あなたは何を鍛えるべきなのか(能力とリミッター編)
第6回、後編です。
体力をつかさどる3つの要素を解説しました。では、これをトライアスロンに特化したトレーニングに落とし込んでいきましょう。
6つのアビリティ
全てのトレーニングを、「アビリティ」と呼ばれる6つの能力に分けます。
どのアビリティも、有酸素容量、無酸素性作業閾値、エコノミーに関係しています。
・Aerobic endurance(有酸素持久力)
・Muscular force (筋力)
・Speed skills(スピード技術)
・Muscular endurance(筋持久力)
・Anaerobic endurance(無酸素性持久力)
・Sprint power(瞬発力)
最初の3つは最も基礎的な能力。後ろの3つよりも先に構築すべきものです。
3つの基礎的アビリティ
最初の3つが最も重要です。これらのアビリティを育てることでベースが構築され、レース体力が成長します。これが低ければ応用能力の拡張は非常に制限されたものとなり、到達すべき上限に行きつくことができません。
これら基礎能力は、シーズンの早い段階(基礎期)で低負荷トレーニングを通じて徐々に育てていきます。
有酸素持久力
有酸素持久力は、低い負荷でとても長い時間運動し続ける能力です。この能力を育むには、一定の心拍・パワー(ゾーン2)で、長い時間動き続けることが重要です。このトレーニングはトレーニング総量を増やし「有酸素容量」を増やします。
有酸素持久力は、身体に様々な変化を呼び起こします。例えば、速筋は遅筋化が進み、血液は酸素を上手く運べるようになります。毛細血管が増え酸素を多く含む血液を筋肉に運べるようになり、筋肉細胞は多くの酵素を作り出したくさんのエネルギーを作り出せるようになります。メリットを上げるときりがありません。有酸素持久力のトレーニングは、トライアスリートにとって最も重要な能力です。
筋力
このアビリティは、抵抗に打ち勝つための能力です。スイムでは水の作る抵抗、バイクとランでは空気の作る抵抗です。強い風に立ち向かう抵抗はとても大きく、上り坂を上る時には重力が抵抗となります。
このアビリティは特に各種目の主要筋の筋肉システムに働くキーになります。これらが上手く育てられていれば抵抗が大きい局面では非常に有利になります。
筋力は「エコノミー」に関わります。抵抗にたやすく打ち勝てるようになれば、それはエコノミーに優れるということです。
筋力は抵抗に対するトレーニングで構築することができます。ウエイトトレーニングで重力に対抗したり、風や坂に向かってバイクに乗ったり走ったりすることや、抵抗を増やす装置を使ったり波の大きな環境で泳ぐことなど。
トレーニングは単純ですが、簡単ではありません。短い時間、非常に強い強度で繰り返します。
これらのトレーニングは、年間トレーニングの非常に早いタイミングでウエイトルームで先行して行います。そして、プールや道路で各スポーツに適用させていくのです。
スピード技術
このアビリティは、各スポーツにおいて効率的かつ効果的な方法で動作する能力です。エコノミーを改善し、体力を向上させるベストな方法です。
このスピードとは速度やペースを指すものではなく、手足の動きの早さのことです。各種目において、高いケイデンスで動くことは技術がいることです。(これはゆっくりの動きでも習得ができるものです。実際新しいスキルを習得する時には低いケイデンスで行います)トレーニングやレースで高いケイデンスで動き続けることは、技術が効率的であり続けなくてはいけません。いい加減な動きで速く動いても、エネルギーを浪費するだけです。
スピード技術は、ドリルや短い時間の高速リピート、そのスポーツの動きの一部に特化したエクササイズを行うことなどで改善できます。短い時間、高頻度のトレーニングが習得のカギです。
3つの応用アビリティ
シーズンの早い段階で基礎能力を習得したならば、トレーニングを応用能力に向けていくべきです。
筋持久力
このアビリティは、トライアスロンにおいていかに早くゴールするかを決定づける能力です。重要なレースの前の数週間にはこの筋持久力メニューが多く含まれています。このアビリティは「無酸素性作業閾値」を向上させます。
筋持久力は、「適度な長さを適度な強さで」泳ぎ、乗り、走る能力です。「適度な」とは、有酸素持久力よりは高く、無酸素持久力よりは低く。AnTちょうどか、AnT以下の領域でトレーニングを行います。
このアビリティは、6分から12分の短いインターバルでレストを短くするか、20分から60分のゾーン3の一定トレーニングによって向上させることができます。重要なポイントは、各種目別にトレーニングを行う必要があるということです。
無酸素持久力
このアビリティは、短い時間で強い動きを発揮する能力です。このトレーニングは有酸素容量を向上させます。
無酸素持久力のトレーニングは、数分間の高強度(ゾーン5)の動きと短いリカバリーを組み合わせたインターバルトレーニングです。
このトレーニングは控えめに、注意深くやる必要があります。シーズン通じて限られた期間にだけ行うものです、やるべきトレーニングではありますが、慎重に行いましょう。
瞬発力
このアビリティはとても短い時間(20秒以内)でとても強いパワーを出す能力です。トライアスロンにおいてはほぼ必要とされません。
6つの能力の中で、最も注意を払う必要がないものです。
鍛えるべきアビリティはどれか?リミッターを見定める
さあ、ではあなたは何を鍛えればいいのでしょうか?
優先すべきことは「リミッターを修正する」ということです。
リミッターとは、あなたが立てた目標を達成するための障壁になるものです。弱点=リミッター、とは限りません。例えば、登りが苦手であっても、平地のレースにしか出ないのであればその弱点はリミッターにはなりません。「あなたの今季のレース、今季の目標における、あなたの能力のリミッターは何か」ということです。
レースは定まっていて、コースプロフィールなども把握しているものとして(まだなら早く調べるべきです)、それに対して自分のリミッターは何かを見定めていきましょう。
3種目×基礎能力
スイム、バイク、ラン、それぞれで、筋力・スピード技術・持久力の強み弱みを判定してみましょう。
本にはテストがあります。第4版はP80、第3版はP123です。内容はちょっと違います。これはそう参考になる内容ではないと思いました。ざっと取り出すと、
単純ですが、
・長い時間の練習が好きか、長い練習でも体力を残して終われるか
→YESならその種目の有酸素持久力は高い
・登りの練習が好きか、得意か。スイムは波が強いレースでも落ちなかったか。
→YESならその種目の筋力が高い。
・短時間高強度練習が好き、得意か。
→YESならその種目のスピード技術が高い。
各種目で考えましょう。
この3種目×基礎的能力の9つの基礎能力のうち、あなたが修正する必要があるものを知ることです。もちろん一つとは限りません。
応用能力の弱点
応用能力の弱点は、基礎能力の弱点から分かります。
筋持久力=有酸素持久力×筋力
無酸素持久力=有酸素持久力×スピード技術
瞬発力=筋力×スピード技術
基礎能力の弱点のどちらか、もしくはどちらもが弱点なのであれば、それが土台となっている応用能力も弱点である可能性が高いです。
これらで弱点を知ることはできます。
しかし、これらはリミッターではありません。繰り返しますが、レースの目標の達成に必要な能力に対して欠けている物がリミッターになり得るのです。
レースの性質にもよります。アイアンマンのような長いレースにおいて最も重要なのは有酸素持久力で、リミッターになりやすいでしょう。坂の多いレースではバイクの無酸素持久力がリミッターになりがちです。
なお、初心者にとっては基礎能力こそがリミッターで、応用能力を育てる必要はありません。基礎能力が出来上がるまではおおよそ1-3年かかります。
経験を積んだアスリートによっては筋持久力や無酸素持久力がリミッターになるでしょう。しかし、毎年基礎能力を再構築すべきです。
リミッターを定義したら、常に頭に置いておきましょう。何が目標を達成するために修正すべきリミッターなのか、何が障壁なのか。
ほとんどのアスリートがこれができていません。その時思いついた内容でトレーニングしています。それどころか、すでに強みとなっている部分のトレーニングばかりしています。坂が強いのに坂ばかり上る、長い距離が得意なのにゆっくり長い距離の練習ばかりする。それではいつまでも本当に改善すべきことを打ち破ることはできません。強みの部分を鍛えても、向上できるのはわずかなのです。
逆に強みはなんでしょうか?強みの部分のトレーニングはすべきではないのでしょうか?
いや、強みを維持するためにトレーニングは継続すべきです。しかしそれが弱点である人ほどにやる必要はありません。弱点を克服するよりも、強みを維持する方が簡単なのです。適切なバランスで行いましょう。
他に検討すべきは、強みを生かせるレース選択をするということです。有酸素持久力に自信があるなら長いレースに、無酸素持久力が強みならショートレースに、坂が得意ならヒルクライムコースを含むレースに。レース選択は成功への一つの方法です。
第6回は以上です。
「あなたは何を鍛えるべきなのでしょうか」
目標を定め、自分の能力を知り、その間にあるリミッターを把握する。それこそが、あなたが鍛えるべきものなのです。
目的のあるトレーニングをしましょう。
次回、ついにトレーニング計画に入ります!!!(笑)
第7回は期分けの話、
第8回でそれを週のトレーニング計画に落とし込んでいきます。
表がたくさんでてきますが転載できません。
本気で取り入れたいと思う人は旧版でもいいから購入しておきましょう。差異については解説します。
サイクリストトレーニングバイブルも、内容はほぼ同じです。バイク部分を取り出しているに過ぎません。バイクだけの方はそれでいいかと。
次回以降もお楽しみにっ(^^)
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