TTB解説(4)成果を出すためのトレーニング強度(用語解説編)
第4回です。丸々「トレーニング強度」について書いてあります。
また前後半に分けます。前半(この記事)で用語解説を、後半(次の記事)で強度計測の実際とゾーン設定について解説します。
強度表などは転載できないので、そこを確認するためだけでも原本を入手してください。もう紙の本は日本では手に入りにくいようなので、電子書籍でどうぞ。オーディブルもあります!
強度を計測するには
だいたい3年以上の経験を積んだトライアスリートにとっては、トレーニングの強度を管理することが成績向上のカギとなります。強度は頻度や時間のように簡単に測ることはできませんが、ツールを使えば管理は可能です。
強度を測る4つの方法を説明します。
1.主観的運動強度(Rate of Perceived Exertion/RPE)
主観に数値を当てはめた主観的強度(RPE)と呼ばれる指標があり、ボルグスケールなどとも呼ばれます。感じるきつさに応じて数字でレベルが設定されています。0-10のレベルが設定されていて、0が運動していないこと、10がその時間でできる最大強度に当たります。
第3版ではボルグスケールは6-20の原型スケールを使っていましたが第4版では0-10の修正スケールに変わりました。
一般的なものなのでネットから画像を拾って添付します。
2、ペース
自転車については、風、勾配、路面、ドラフティングありなしなどで同じ速度でも強度が異なるため、速度は強度の測定には適しません。
ランについてはGarminなどGPSの計測ができるデバイスが必要です(スマホアプリでもできます)。スイムは距離が25mか50mで決まっているので、プールの時計で確認できます。
3、心拍
心拍が表すのは、その運動でどれだけ努力をしているかということ。心拍は他の客観的強度を測るツールの中で最も主観的強度と一致しやすいものです。
4、パワー
パワーメーターは、ペダルにかかる強さ(トルク)とペダルの回転スピード(ケイデンス)を計測し、その組み合わせによってパワー(ワット)を表しています。
パワーメーターを使いそのパラメーターを学ぶことはトレーニングの大幅な改善に繋がるでしょう。
トレーニング強度の基準点
運動強度を測る時、いくつかの基準となるポイントがあります。まずはこれを理解しましょう。
それぞれのポイントに対応する主観的強度が充てられているので、ボルグスケールを見比べながら理解するといいと思います。
まず運動と乳酸の関係について説明します。(※以下はこの本に記載がある内容ではありません)
軽い強度で運動している時には、酸素を取り込み脂肪や糖を酸化することでエネルギーを生み出しています(有酸素系)。糖を分解するとき乳酸を生成しますが、低い強度では乳酸の生成量は少なく、生成された乳酸はまたエネルギー源として消費されるため乳酸が蓄積されることはありません。
しかし、強度が上がり糖を分解することが増えてくると、乳酸の生成量が増えて消費が追い付かなくなります。結果、血中乳酸値が上がります。この値を運動強度を測る指標として利用しているわけです。
(乳酸が悪者、というわけではなく、高い強度の運動をすると乳酸が蓄積します、という「結果」です。「乳酸が溜まって動けない」という言い方は正確ではありません。筋肉疲労の原因となる物質は別にある、というのが現在の生理学の常識のようです。)
さらに運動強度が上がると、酸素を利用したエネルギー生成(速度が遅い)では間に合わなくなり、筋肉中の糖(グリコーゲン、グルコース)を直接分解することでエネルギーを発生させます(解糖系)。最高の運動強度で1~2分しか持続できません。このエネルギー生成では酸素を消費しないため「無酸素運動」と呼ばれます。
これをふまえて、
有酸素性作業閾値(Aerobic Threshold/AeT)
【閾値】「いきち」もしくは「しきいち」と読みます。英語の読みは「スレッショルド」。
ある状態から別の状態に変化する限界点を指します。「ここを超えると別の状態になる」というポイントのことです。
有酸素性作業閾値とは、酸素を利用してエネルギーを生み出している(有酸素系)運動強度から、無酸素性のエネルギー経路(解糖系)が働き「始める」転換ポイントです。乳酸値や呼吸気分析により測ることができます。
血液中の乳酸値は休息状態で1mmol/L(ミリモル、と読みます)。運動の強度が増えていくにしたがって乳酸値は上昇し、乳酸値が2mmol/Lに達するポイントがAeTとされています。主観的強度RPEは3~4(適度~やや強い)の間です。
心拍数では、最大心拍数の約65%。また、次に説明する「無酸素性作業閾値/AnT」から心拍数で20-40低いところになります。AnTは研究室などに行かずとも自己テストで推測することができるため、そこから30拍低いところをAeT心拍として設定することができます。
無酸素性作業閾値(Ananerobic Threshold/AnT)
無酸素性作業閾値とは、運動強度があがり乳酸の代謝速度よりも生成速度が上回り、急激に乳酸が蓄積しはじめるポイントのことです。乳酸値が4mmol/Lに到達するポイントをAnTと見なしています。主観的強度は7(かなりきつい)です。AnT強度での運動は1時間が限界です(AeT強度では数時間続けられます)。
「無酸素運動」(解糖系)のみでは1-2分しか運動を継続できませんので、「無酸素性作業閾値」は「無酸素運動」というわけではありません。
「AT」という言葉は一般的にはAnTをさしていると思いますが、AeTとAnTを混同しているサイトもあるので読み取る時には注意が必要です。
AT(AnT)よりもLTという言葉の方がよく使われていると思います。これはLactate Thresholdの略で「乳酸性閾値」と訳します。これがまさに「急激に乳酸が溜まり始めるポイント」のことなのですが、LTとAnTは非常によく似ているのでニアリーイコールとして扱うことができるのです。
適切なトレーニングを行うと、AnT(≒LT)は引き上げることができます。運動強度を上げても乳酸値が上がりにくくなるということです。
持久系スポーツでは、有酸素系のエネルギー生成で動けるスピードや時間を向上させる(有酸素運動能力を上げる)ことと、AnT(≒LT)を引き上げて一定時間中に動ける強度を上げる、ことがトレーニングの中心となります。
トライアスロンのレースではほとんどの人がAeTとAnTの間で走ります。アイアンマンディスタンスではほとんどがAeT前後、主観的強度も3-4の低い値です。スプリントレースではほぼAnT強度となり主観的強度は7になるでしょう。
つまり、強度は時間次第だということです。強く動けば動ける時間は短くなり、強度を下げれば長く動ける。アイアンマンディスタンスとスプリントの強度で走ってはいけないのです。
有酸素性容量(Aerobic Capacity/AeC)
酸素を利用してエネルギーを生み出せる能力の限界点です。「Vo2Max(最大酸素摂取量)」という呼ばれ方の方が一般的でしょう。
一般には、出せる最大スピード、最大パワーのポイントです。
機能性閾値(Functional Threshold/FT)
厳密には、ATは呼気分析、LTは乳酸値の測定をしなければ計測することはできません。しかし、それらは専用の研究室や機器を必要とし、一般のアスリートが毎トレーニングで活用できるものではありません。
そこで近似として扱われるのがこのFTです。ATもLTもほぼ「一時間継続できる最大」の運動で出現する値であるため、その「1時間継続できる最大」の機能(運動)をFTとして知ることができます。
お気づきだと思いますが、バイク用語としてよく使われる「FTP」はこのFTのパワー値のことです。1時間継続できる最大のパワーです。
FTを使えばとてもシンプルにATを測ることができます。「1時間継続できる最大」をテストすればいい。つまり各スポーツで1時間のタイムトライアルをすればいいということです。そこでの心拍やパワーやスピードを計測すれば、それがあなたのAnTの値となり、そこからAeTも推測できます。
なお、FT心拍はスポーツによって違います。ランニングが一番高く、次に自転車。スイムが一番低くなります。それぞれでの計測が必要です。
実際には1時間のタイムトライアルは一人では非常に困難なため、20分のタイムトライアルから推測します。次回そのテストの方法と、それをAnTやAeTに当てはめる方法、各スポーツのゾーン設定の仕方について解説します。
トレーニングでよく使われる用語「LT」「AT」「FTP」をなんとなく理解できたでしょうか?どれも「1時間継続できる最大強度」あたりで出現する値を利用した運動強度のポイントです。
これを基準として、運動強度を1~5までのゾーンに分け、それに基づきトレーニングを行うのが「ゾーントレーニング」です。
ゾーンは「心拍ゾーン」とは限りません。パワートレーニングも「パワーゾーン」トレーニング、ダニエル表に沿ってTペースMペースEペースで行うトレーニングもまた「スピードゾーン」トレーニングなのです。
どのゾーンを利用するにしても、最も重要なのは最初の基準値設定です。特に心拍については「220-年齢を最大心拍数とする」という一般的値を使ってしまいがちなのですが、これは日々トレーニングをしている市民アスリートに適用するものではありません。是非、20分間のテストを実施して、自分のFT心拍数を知り、より効果的なゾーントレーニングを始めましょう。
後半に続きます~。
TTB解説(4)成果を出すためのトレーニング強度(ゾーン設定編)
トライアスリートトレーニングバイブル解説 トレーニング研究 「トレーニング強度」について、続きです。 前回は、トレーニング強度を測りトレーニングに活用するためには、まず基準となる値の計測が必要、ということを説明しました。その値にはAnT、LT、FTがありそれぞれ近似で、「1時間継続できる最大の強度」をFT(機能性閾値)でとらえればそれを利用できます。 …
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